『キングダム』を第1話から改めて読み返して振り返っていくシリーズ。
今回は第11話「不退転」です。
前回、政を暗殺するために送り込まれた刺客・ムタが信たちの前に現れました。第11話では、いよいよ信vsムタの戦いが本格的に始まります。
しかし、今回個人的に注目したいのは戦闘だけではありません。タイトルにもなっている「二人の対話」。戦う信を横目に、政と河了貂が「王」について言葉を交わします。
キングダムを後まで読んでから振り返ると、ここで語られる政の考え方はかなり重要です。まだ物語が始まって間もない第11話ですが、後の秦王・嬴政につながる思想が、すでに少しずつ見え始めています。
信 vs ムタ!奇妙な動きに苦戦する信
前回登場したムタは、蚩尤族と同じく南越にルーツを持つベッサ族の戦士。
ムタは独特な武器と動きを使って信に襲いかかります。ここまで信は朱凶を倒すなど、すでに高い戦闘能力を見せていました。
しかし、ムタはこれまでの相手とは少し違います。動きが読みづらく、独特なリズムで攻撃してくるため、信は思うように戦うことができません。
現在の信を知っていると忘れてしまいそうになりますが、この頃の信はまだ実戦経験がほとんどありません。身体能力や剣の才能はあっても、さまざまなタイプの敵と戦った経験はない。
だからこそ、こうした変則的な相手には苦戦します。後に数々の強敵と戦っていく信のことを考えると、こうした一戦一戦が経験として積み重なっていったのでしょう。
河了貂はなぜ政についていくのか?
信とムタが戦っている一方で、政と河了貂は少し離れた場所から戦いを見ています。
そこで河了貂が政に質問します。
ここで始まるのが、第11話のタイトルにもなっている「二人の対話」です。
河了貂はまだ政という人間をよく知りません。
そもそも政は王です。
一方の河了貂は黒卑村で一人で生きてきた子ども。
普通に考えれば、まったく違う世界に生きてきた二人です。
しかし、成り行きとはいえ河了貂は信や政と一緒に行動することになりました。
そこで河了貂は、政が何を考え、何を目指しているのかを知ろうとします。
政にとって「王」とは何なのか
この対話の中で見えてくるのが、政にとっての「王」という存在です。
政は弟・成蟜によって王宮を追われています。普通なら、「奪われた王座を取り戻したい」という話だけでも十分でしょう。
しかし政が目指しているものは、単に自分が再び秦王になることだけではありません。この時点ですでに、政にはその先があります。
後にキングダムという物語の大きな柱となっていく、『中華統一』。
そして、その先にある戦乱の終結です。
キングダムを最初に読んだときは、まだ物語の全体像が分からないので、この会話も政というキャラクターを説明する場面の一つとして読んでいたように思います。
しかし後の展開を知ってから読み返すと、もうこの段階から政の目標は一貫しているんだなと感じます。
政と信は、実はよく似ている
ここで改めて面白いと思ったのが、政と信の関係です。
二人は立場がまったく違います。信は戦災孤児として育った下僕。政は秦国の王。普通なら交わることのない二人です。
しかし、二人には大きな共通点があります。それが、とてつもなく大きな目標を本気で目指していること。信は「天下の大将軍」。政は「中華統一」。
どちらも周囲から見れば簡単に実現できるような目標ではありません。それでも二人は、できるかどうかではなく、「自分はそこへ行く」という前提で動いています。
キングダムという作品では、この二人の夢が徐々に一つの道へ重なっていきます。政が中華を統一するためには、強大な軍を率いる将軍が必要になる。信が天下の大将軍になるためには、巨大な戦いの舞台が必要になる。
この時点ではまだ二人とも何者でもありません。だからこそ、第11話から読み返していくと、この二人が後に秦国を動かしていく存在になることに改めて面白さを感じます。
河了貂は読者に近い存在なのかもしれない
そして今回の「二人の対話」で重要なのが河了貂です。
政が一人で自分の夢を語り始めても、少し不自然です。そこで河了貂が質問することによって、政が何を考えている人物なのかが読者にも少しずつ分かってきます。
河了貂はこの時点では王宮の事情にも、戦争にも、政治にも詳しくありません。だからこそ、「そもそも、なぜそこまでして王になりたいの?」という読者側に近い疑問を政にぶつけることができます。
こうして読み返してみると、河了貂は序盤において、信と政の世界へ読者を案内する役割も担っているように感じます。
もちろんこれは私自身の読み方で、作者がその役割を明示しているという意味ではありません。
一方、信はムタに大苦戦
政と河了貂が落ち着いて話している一方で、信は大変です。ムタの変則的な攻撃に対応できず、苦戦を強いられます。
個人的には、この温度差もちょっと面白いところです。信は必死に戦っている。そのすぐ近くで政と河了貂はかなり重要な話をしている。
現在のキングダムでは巨大な軍同士がぶつかり、何万人という兵士が戦う場面も珍しくありません。
それと比べると、第11話は非常に小さなスケールです。しかし、信は目の前の敵と戦い、政は自分が目指す未来について語る。
この2つが同時に描かれていることが、後のキングダムを象徴しているようにも感じます。信の「武」と政の「王」。この二つがやがて秦の中華統一へとつながっていくわけです。
政の一言で信の雰囲気が変わる
ムタに苦戦する信。そんな信に対して、政が言葉をかけます。
ここも印象的な場面です。政は自分でムタと戦うわけではありません。しかし、その言葉によって信の気持ちを変えてしまいます。そして信は再びムタへ向かっていきます。
後の政を見ていると、多くの人間を動かす場面が何度も登場します。
将軍。
兵士。
秦国の民。
そして他国の人間。
政自身が剣を振るうのではなく、言葉や意志によって人を動かす。そう考えると、第11話のこの小さな場面にも、後の政につながる部分があるように感じました。
初期キングダムは「信と政」の物語だった
現在のキングダムは登場人物が非常に多くなっています。
秦だけでも多くの将軍や軍師が登場し、さらに趙、魏、楚、韓、燕、斉と各国にも魅力的な人物がいます。
しかし序盤まで戻ってみると、物語は驚くほどシンプルです。天下の大将軍を目指す信。そして、中華統一を目指す政。この二人が、それぞれの夢に向かって歩き始める物語でした。
第11話「二人の対話」は派手な回ではありません。それでも後の物語を知っているからこそ、キングダムという壮大な物語の原点が詰まった回のように感じます。
第11話「二人の対話」まとめ
第11話では、信とムタの戦いが本格的に始まる一方、政と河了貂による重要な対話が描かれました。
今回特に印象に残ったポイントは、
● 独特な戦い方をするムタに苦戦する信
● 河了貂と政による「王」をめぐる対話
● この頃から見え始める政の大きな目標
● 「天下の大将軍」と「中華統一」を目指す信と政の共通点
● 政の言葉によって再び立ち上がる信
といったところです。
初めて読んだときには、信vsムタの戦いの方が印象に残る回だったかもしれません。しかし、後のストーリーを知ってから読み返してみると、むしろ政と河了貂の対話の方が重要だったのではないかと感じます。
ここから信は数々の戦場へ向かい、政もまた中華統一という途方もない目標へ向かって進んでいきます。まだすべてが始まったばかり。それでも、第11話の時点ですでに二人が向かう未来が少しずつ見えているところが、改めて読み返す面白さですね。
次回、第12話「忠臣」では信とムタの戦いが決着。そして、ついに昌文君が登場します。
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