法律や弁護士をテーマにした漫画は数多くありますが、その中でもかなり異色なのが真鍋昌平さんの『九条の大罪』です。
作者は、社会の裏側を強烈なリアリティで描いた『闇金ウシジマくん』でも知られる真鍋昌平さん。
『九条の大罪』でもその作風は健在です。
ただし、今回の主人公は闇金業者ではなく弁護士。
半グレやヤクザ、前科者など、世間から見れば決して「善良な人」とはいえない人々の弁護も引き受ける弁護士・九条間人(くじょう たいざ)を中心に物語が展開します。
単純な勧善懲悪ではなく、
「法律とは何なのか」
「正義とは誰にとっての正義なのか」
「犯罪者にも弁護を受ける権利があるということをどう考えるのか」
そんな簡単には答えを出せない問題を突きつけてくる漫画です。
『闇金ウシジマくん』が好きだった人はもちろん、社会派漫画や少し重めの作品が好きな人には、ぜひ一度読んでほしい作品です。
『九条の大罪』とは?
『九条の大罪』は、『闇金ウシジマくん』の真鍋昌平さんによる漫画です。
2020年から『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載されています。
主人公は弁護士の九条間人。
しかし、いわゆる正義感にあふれた熱血弁護士ではありません。
九条のもとにやってくる依頼人には、半グレ、ヤクザ、前科者など、かなり危険な世界に生きる人間も少なくありません。
一般的な感覚からすれば、
「なぜこんな人間を弁護するのか?」
と思ってしまうような人物の依頼も引き受けます。
ネット上では悪徳弁護士と呼ばれることもある九条。
それでも九条は、自分の仕事を淡々とこなしていきます。
そこに『九条の大罪』という漫画の面白さがあります。
「悪人を弁護する」という弁護士の仕事
この作品を読んでいて特に考えさせられるのが、弁護士は誰のために存在するのかという問題です。
犯罪を犯した人間を見ると、
「悪いことをしたのだから厳しく罰せられるべきだ」
と考えるのは自然な感覚でしょう。
ところが弁護士の立場からすれば、相手がどのような人間であっても、その人の権利を守り、法律に基づいて弁護することが仕事になります。
九条も、依頼人を「善人だから助ける」というスタンスではありません。
だからこそ、読んでいるこちらの倫理観が揺さぶられます。
「九条がやっていることは正しいのか?」
「法律上正しいことと、道徳的に正しいことは同じなのか?」
読んでいると、そんなことを何度も考えさせられます。
九条と刑事、それぞれの「正義」がぶつかる
個人的に『九条の大罪』で面白いと感じるポイントの一つが、登場人物によって正義の形が違うことです。
九条は、ヤクザや半グレのような裏社会で生きる人間であっても、法律によって守られるべき権利があるという立場で弁護します。
一方、犯罪者を追う刑事たちからすれば、そうした人間を法律によって守る九条の存在は面白くありません。
被害者の立場から見ても同じでしょう。
そのため、
九条=正義
刑事=悪
という単純な構図にはなっていません。
むしろ刑事側の主張を読んでいると、
「確かにそうだよな」
と思ってしまう場面もあります。
しかし九条側の話を読むと、
「でも弁護士という仕事を考えれば、九条の言っていることも間違っていない」
とも感じます。
どちらか一方だけを正義として描かないところが、この作品の大きな魅力だと思います。
『闇金ウシジマくん』と共通する社会のリアルさ
『九条の大罪』を読んでいると、やはり『闇金ウシジマくん』と共通するものを感じます。
それは、普段生活しているだけではなかなか見えてこない社会の裏側を描いていることです。
『闇金ウシジマくん』では、闇金業者という立場から、多重債務、ギャンブル、風俗、裏社会など、さまざまな人間の人生が描かれていました。
『九条の大罪』では、その視点が弁護士へと変わっています。
犯罪、半グレ、ヤクザ、薬物、介護、医療など、さまざまな社会問題が事件を通じて登場します。
同じように社会の暗い部分を描いていても、主人公の立場が変わることで見える景色も変わってくる。
『闇金ウシジマくん』を読んでいた人ほど、この違いは面白く感じるのではないでしょうか。
とにかくリアリティがすごい
もう一つ印象的なのが、作品全体から感じるリアリティです。
登場人物の会話や人間関係、裏社会の描写、事件が起きてから弁護士が関わっていく流れなどが細かく描かれているため、フィクションを読んでいるはずなのに、
「実際にもこんな世界があるのでは?」
と思わされます。
もちろん漫画なので、描かれている内容のすべてを現実の法律実務や実際の事件と同じものとして受け取るべきではありません。
一方で、小学館による作品紹介でも、作者による取材や実話をモデルにした事件、司法制度・法曹界についての描写が本作の特徴として紹介されています。
そのリアルさが作品独特の緊張感につながっています。
明るく爽快な作品ではありません。
むしろ読んでいて嫌な気持ちになったり、
「こんな世界には関わりたくないな……」
と思ったりすることもあります。
それでも続きを読みたくなる。
そこは『闇金ウシジマくん』にも通じる魅力だと思います。
「法律=正義」ではないところが面白い
法律漫画というと、主人公の弁護士が法律の知識を駆使して悪人を倒し、最後には正義が勝つ――というストーリーを想像するかもしれません。
『九条の大罪』は、そうした爽快感を楽しむタイプの作品とは少し違います。
法律を使った結果、必ずしも読者が納得できる結末になるとは限りません。
そもそも、
法律に従っていることと、人として正しいことは同じなのか?
という問題があります。
法律は社会を維持するために必要です。
しかし、法律だけですべての善悪を判断できるわけではありません。
『九条の大罪』では、その境界線が何度も描かれます。
だから読み終わったあとにも、
「あの判断は本当に正しかったのだろうか?」
と考えてしまいます。
この読後感こそが、『九条の大罪』ならではの面白さなのではないかと思います。
九条間人という主人公が面白い
そして、やはりこの作品の中心にいる九条という人物そのものが魅力的です。
一般的な漫画の主人公のように、感情的に正義を語るタイプではありません。
何を考えているのか分かりにくく、
「この人は善人なのか、それとも悪人なのか?」
ということすら簡単には判断できません。
しかし読み進めていくと、九条なりの弁護士としての考え方や信念が少しずつ見えてきます。
この人物を単純に「悪徳弁護士」と呼んでいいのか。
逆に「正義の弁護士」と呼ぶことができるのか。
その答えを探しながら読むこと自体が、この作品の楽しみ方の一つだと思います。
『九条の大罪』はこんな人におすすめ
『九条の大罪』は、特にこんな人におすすめです。
● 『闇金ウシジマくん』が好きだった
● 社会派漫画が好き
● 裏社会を題材にした作品が好き
● 法律や弁護士を扱った漫画に興味がある
● 単純な勧善懲悪ではない作品が好き
● 読んだあとに考えさせられる漫画が好き
● ダークでリアリティのある人間ドラマが好き
逆に、明るい作品や爽快な勧善懲悪を求めている人には、かなり重く感じるかもしれません。
犯罪や裏社会などの描写も多いため、人を選ぶ作品ではあります。
しかし、そういった重いテーマを扱う漫画が好きなら、かなりハマる可能性があると思います。
まとめ:正義とは何かを考えさせられる漫画
『九条の大罪』は、単なる弁護士漫画ではありません。
犯罪者を弁護する九条。
犯罪者を捕まえようとする刑事。
被害を受けた人。
裏社会で生きる人。
それぞれに立場があり、それぞれに言い分があります。
その中で、「法律」「モラル」「正義」は必ずしも同じ方向を向いているわけではないということを突きつけてくる作品です。
『闇金ウシジマくん』で描かれた社会の闇を、今度は「弁護士」というまったく違った立場から見る。
両作品を読んでいると、その対比も非常に面白く感じます。
決して気軽に読める内容ばかりではありませんが、読み始めるとその独特の世界観に引き込まれます。
『闇金ウシジマくん』が好きだった人や、少し重めの社会派漫画を探している人には、ぜひおすすめしたい作品です。
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