Netflixで配信されている映画『浅草キッド』。
漫才師、映画監督、俳優など、さまざまな分野で活躍してきたビートたけしこと北野武さんの若き日を描いた作品です。
以前から「面白い」という評判は聞いていたのですが、実際に観てみると期待以上でした。
この映画で描かれているのは、単なる「ビートたけし誕生物語」ではありません。
若き日のたけしと、その師匠である深見千三郎。
売れていく弟子と、時代の変化によって次第に取り残されていく師匠。
二人の関係を通して、夢を追うこと、誰かから何かを受け継ぐこと、そして時代が変わっていくことの切なさまで描いた作品だと思います。
笑えるシーンもたくさんあるのに、観終わった後には少し切ない。
そんな余韻が残る映画でした。
若き日のたけしさんが飛び込んだ昭和の浅草
物語の舞台となるのは、昭和の浅草。
大学を中退した若き日のたけしは、芸人になることを夢見て浅草フランス座へとやってきます。
※以降、敬称略で書かせていただきます
そこで出会うのが、大泉洋さん演じる芸人・深見千三郎です。
たけしはフランス座でエレベーターボーイなどの仕事をしながら、深見のもとで芸を学んでいきます。
しかし、芸人になるために必要なのは、舞台の上でネタを覚えることだけではありません。
深見がたけしに教えるのは、
「芸人なら、いつでも芸人でいろ」
という生き方そのものです。
日常生活でも人を笑わせる。
歩き方一つにも芸を入れる。
芸人として生きるとはどういうことなのか。
たけしは深見との日々を通して、少しずつそれを身につけていきます。
この映画で一番好きなのは「師匠と弟子」の関係
個人的に『浅草キッド』で一番魅力を感じたのは、やはり深見千三郎とたけしの関係です。
深見は決して優しい師匠ではありません。
言葉遣いは荒く、たけしに対しても厳しく接します。
ところが、その言葉や態度の奥には、弟子に対する愛情があります。
そしてたけしもまた、深見を心から尊敬しています。
単純に「先生から技術を教えてもらう」という関係ではなく、芸人としての考え方や生き方そのものを受け継いでいく。
こういう師匠と弟子の関係は素敵だなと感じました。
映画を観ていると、後に日本を代表する芸人となるビートたけしの中に、深見から受け継いだものが残っていることを感じさせてくれます。
売れていく弟子と、取り残されていく師匠
そして『浅草キッド』を単純な成功物語にしていないのが、時代の変化です。
たけしは芸人として成長し、やがて新しい世界へと進んでいきます。
一方、深見が大切にしてきたのは舞台で見せる芸です。
しかし世の中ではテレビが急速に普及し、人々が笑いを見る場所そのものが変わっていきます。
劇場からテレビへ。
コントから漫才へ。
新しい時代に適応していく若者と、自分が信じてきた芸を守ろうとする師匠。
弟子が成功していくことは、本来なら師匠にとって喜ばしいことです。
それなのに、弟子が前へ進めば進むほど二人の距離が離れていく。
この構図がなんとも切ない。
「どちらが正しい」という話でもありません。
たけしが新しい世界へ進もうとするのも当然ですし、深見が自分の芸に誇りを持っていることも理解できます。
だからこそ、時代の変化に取り残されていく深見の姿には、なんとも言えない悲哀を感じました。
大泉洋演じる深見千三郎が格好いい
この作品では、大泉洋さん演じる深見千三郎が非常に印象に残りました。
普段バラエティ番組などで見る大泉洋さんのイメージとは少し違い、昔気質の芸人としての格好良さがあります。
口は悪い。
頑固。
プライドも高い。
でも芸に対しては誰よりも真剣。
そして弟子の才能を認めています。
特に印象的なのは、たけし本人には素直に褒めないのに、別の場所では弟子の才能を認めているところ。
いかにも昔ながらの師匠という感じです。
たけしに対して直接「お前はすごい」と言うのではなく、厳しい言葉をかけながら成長を見守る。
その不器用な愛情が、この作品の温かさにつながっていると思います。
柳楽優弥の「若き日のビートたけし」も見どころ
そして、柳楽優弥さん演じる若き日のたけしも見事です。
実在する人物、それも誰もが話し方や仕草を知っているビートたけしを演じるのは、かなり難しかったのではないでしょうか。
単純なモノマネではなく、
「若い頃のビートたけしなら、こんな感じだったのかもしれない」
と思わせる人物になっています。
最初はまだ何者でもなかった青年が、深見から芸を学び、自信をつけ、少しずつ芸人としての存在感を増していく。
私たちはその後のビートたけしがどうなるのかを知っています。
だからこそ、無名だった青年が舞台に立つ姿を見るだけでも不思議な感覚があります。
昭和の浅草の雰囲気も魅力
この映画でもう一つ好きなのが、昭和の浅草の雰囲気です。
今の浅草とはまた違う、少し雑然としていて、人間臭い街。
劇場。
飲み屋。
芸人。
踊り子。
夢を追いながら、その日を生きる若者たち。
そんな時代の空気が作品全体に漂っています。
もちろん映画として再現された昭和の浅草ではありますが、その世界に入り込んで当時の街を歩いてみたくなるような魅力があります。
現在の浅草を知っている人なら、
「この街にこんな時代があったのか」
という視点で観ても面白いと思います。
劇中で流れる『浅草キッド』が心に沁みる
そして、この映画に欠かせないのが『浅草キッド』という曲です。
ビートたけし自身が作詞・作曲した楽曲で、劇中でも重要な場面で流れます。
映画を観る前に聴くのと、映画を観た後に聴くのでは印象がまったく違いました。
若い芸人たちが夢を追った浅草。
貧しくても未来を信じていた時代。
師匠との思い出。
売れた人間と、売れなかった人間。
映画の中で描かれてきたものが、この曲に重なっていきます。
作品のタイトルがなぜ『浅草キッド』なのか。
映画を最後まで観ると、その意味がより深く感じられると思います。
これは「成功した人」の話だけではない
『浅草キッド』はビートたけしという大スターの若き日を描いているので、一見すると成功者のサクセスストーリーに見えます。
でも、個人的にはそれだけの映画ではないと思いました。
夢を追っていた若者たちの中で、成功する人もいれば、そうではない人もいる。
才能があっても時代に合わなくなることもある。
自分が信じてきたものが、世の中から必要とされなくなることもある。
そして、新しい世代は前の世代から何かを受け取りながら、別の道へ進んでいく。
そう考えると、芸人の世界だけの話ではありません。
仕事でもスポーツでも職人の世界でも、似たようなことはあると思います。
「教える人」と「教わる人」。
「古い世代」と「新しい世代」。
「変わらないこと」と「変わらなければならないこと」。
そんな普遍的なテーマが、深見とたけしの関係に詰まっています。
笑えて、最後には少し切なくなる映画
『浅草キッド』は2021年にNetflixで配信された映画で、劇団ひとりさんが監督・脚本を担当しています。
深見千三郎を大泉洋さん、若き日のタケシを柳楽優弥さんが演じ、門脇麦さんなども出演しています。
芸人を題材にしているだけあって笑えるシーンもあります。
それでも観終わった後に残るのは、どちらかというと温かさと切なさでした。
弟子が成功する。
師匠は取り残される。
それでも師匠から教わったものは弟子の中に残り続ける。
そんな師弟関係がとても印象に残ります。
ビートたけしが好きな人はもちろんですが、たけしについてそれほど詳しくない人でも十分に楽しめる作品です。
昭和の雰囲気が好きな人。
何かに打ち込む人を描いた作品が好きな人。
師匠と弟子の物語が好きな人。
そして、夢を追った経験がある人。
そんな人には特におすすめしたい映画です。
劇中で流れる『浅草キッド』とともに、観終わった後にも余韻が残る。
何度か観返したくなる作品でした。
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